『差別と日常の経験社会学』

 サブタイトルに『解読する〈私〉の研究誌』とあるように、差別問題(の社会学)を専門としてきた著者が、差別の社会学的研究においていろいろと経験してきたことを、過去の論文(に補遺を加えたもの)から示していく感じの本。ただ、単に「研究でこういう経験をしました」ってことだけを示そうとする本ではなくて、自己言及によって「差別」なるものを考えていこうとする意図があるとのこと。つまり、差別研究の経験を通して差別を研究すると言うか。

 本書でいちばん示したいのは次のことだ。社会学のものの考え方や現実への迫り方(フィールドワーク)を前提にしたとき、もっとも「有効」な差別の語り方は、自己言及あるいは語り直し、すなわち繰り返し社会学する〈私〉から出発し、そして最終的にそこへ帰って行きつつ、差別を語っていくあり方である。そして、どのようにして私がこの巻が得方をサポートするに至ったのかというすじみちを本書のなかで明らかにしたい。それが、これから私が読者を誘いたい旅の方向性である。(p.5)

って感じで。
 で、本書は「地平」「奈落」「匍匐前進」「展望」の4パートに分けられてて。それぞれのパートは、各パートのタイトルを象徴するような論文によって構成されてる。

差別と日常の経験社会学―解読する“私”の研究誌

差別と日常の経験社会学―解読する“私”の研究誌


 目次は以下のような感じ。

Ⅰ 地平
プロローグ
第1章 調査経験を通して生きられる〈差別の日常〉――あるライフストーリー・インタビューの再解釈
第2章 ライフストーリー的想像力の射程と限界――高史明『生きることの意味 青春編』を手がかりに
第3章 教室における日常性批判の(不)可能性――二部学生による「在日」経験レポートを手がかりに 
Ⅱ 奈落
プロローグ
第4章 在日外国籍自動在籍校でのフィールドワーク経験の再解釈――「語りえぬもの」の探索という観点から
第5章 現場で「最終報告」したこと――5年B組のクラスルーム・ライフ
補遺  語っておかねばならないこと
Ⅲ 匍匐前進
プロローグ
第6章 浮き立たせ、構成する〈力〉――ある在日挑戦人教育実践記録=物語の解読
第7章 日常に抗する生の語り=ライフストーリー ――知の生産活動〈場〉へのコントロールの視点から
第8章 聞き合われ、語り合われる在日=物語――「反ロマンティシズム」的物語論の立場からの一考察
第9章 マイノリティにおけるセルフヘルプグループ的運動の可能性――グループありらん(仮)の事例にみる「語りのコミュニティ」の生成
Ⅳ 展望
プロローグ
第10章  内側から切り裂く――「在日」における名前・名のり問題再考
第11章  宙をさまよう第一声――ライフヒストリー実践の「対話」性を問うために
結論にかえて――差別・日常・解読

って感じ。
 俺はどっちかと言うと、インタビューを「事実を描くための一つの手法」って考えるところが大きいので、あまり「インタビューによって何が構築されるのか」って方向には踏み込んでこなかった(論文や報告という形では)。なので、インタビューについての重点の置き方で、俺とは立場が異なるところもあるなとは思った。ただ、論文や報告では踏み込んでこなかったけど、インタビューによってつくり出されるものやことを考えることは重要であることに間違いないので。いろいろ考えつつ読めた。
 個人的には、「通名/本名の使用って、自然/作為って枠ではなくて、どちらも等しく自己呈示行為だと捉えられるんじゃないか」とした10章が面白かった。ハンセン病者の(特に「社会復帰者」の)「カミング・アウト」とも重なる話。